ブラックウェル館
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ブラックウェル館ー過去の展覧会の例

The Flowering of the Arts and Crafts in the Lake District
湖水地方におけるアーツ・アンド・クラフツ運動の展開

2006年2月13日〜4月23日

19世紀後半から20世紀前半にかけて大きな展開を見せた英国アーツ・アンド・クラフツ運動。美術的に優れた質の高い日用品を手仕事の伝統に基づいて生産し、人々の生活を物質面だけでなく精神面でも改善しようとしたものでした。
昔ながらの自然と手工芸の伝統が受け継がれてきたここ湖水地方でもこの理念を汲む運動が起こります。特有の自然に触発され、すぐれた技と創意が反映された作品が生み出されていきました。
この展覧会では、アーツ・アンド・クラフツ建築の傑作ブラックウェル館を舞台に、これらの貴重な作品が集結されました。

館内の壁や天井を飾るオークの彫刻は、湖水地方の古い市場町ケンダルの家具職人シンプソンズSimpsons of Kendalの手によるものです。これを背景に彼らが製作した家具が特別展示され、木のぬくもりと卓越した職人の技、優美な装飾が見事に調和しました。

中世より羊毛産業の中心地として栄えた湖水地方では、紡績や染織にかかわる様々な手工芸が発達します。産業革命で一時は途絶えたこの伝統は、地元のラングデール・リネン会社The Langdale Linen IndustryやスピナリーThe Spinneryとよばれたテキスタイル工房の活動によって復興されました。スピナリーを女手ひとつで立ち上げたアニー・ガーネットは手で梳き紡いだ糸で布を織り、そこに自ら考案した自然のモチーフを刺繍しました。伝統の技が作家の創意と出会い優れたデザイン性がみられます。

湖水地方の北部ではケジック産業美術工芸学校The Keswick School of Industrial Artsが設立され、地場産業の復興に大きく貢献しました。この学校は単なる人材育成の場ではなく優れた金属工芸の作品を数多く生産し製作工房としても全国的な成功を収めます。打ち出し細工によって植物の可憐な模様が施されたこの学校の作品は現在も美術収集家の間で注目を集めています。

これらの出展作品には「人間一人一人が、自然から学び芸術的感性を生活に活かすことで精神的に豊かな暮らし、そして健康な社会が実現できる」と説いた大啓蒙家ジョン・ラスキンの理念が反映されています。この展覧会では芸術家でもあった彼の作品や関連資料も紹介されました。

 

William Plumptre: New Pottery
陶芸家ウィリアム・プランプトリの作品展

2006年5月3日〜6月18日

湖水地方をベースに活躍する陶芸家ウィリアム・プランプトリの作品展。

今回ブラックウェル館に展示されている作品には、今彼が意欲的に取り組んでいる独特の装飾技法を使った新作も見られました。陶芸界の第一人者の一人といわれるプランプトリの作品が工房から直接出展され、展覧会開催中そのほとんどが来館者によって購入されました。

プランプトリはロンドンのチェルシー美術大学に通った後、陶芸の勉強をするために日本に渡ります。それから2年を経て、人間国宝の陶芸家、島岡達三の工房で一年間修行をする機会が訪れます。焼きもののできる過程や土・釉薬について体で学んだ深い知識を身に付けて1987年に帰国、子供の頃から親しんだ自然深い湖水地方に釜を設立しました。以後、国内外で様々な展覧会に出展しその名が広く知られるようになりました。シラク仏首相が英国に正式訪問したおり女王から首相に彼の作品が贈られ、また近年には英国から日本の天皇への贈呈品として彼の皿が選ばれるなど、英国を代表する作家として活躍しています。

彼の制作活動は、日本民芸運動の陶芸家、浜田庄司やバーナード・リーチが20世紀の初めに築き上げた日英間の文化的つながり、そしてそれを土台に発展していった陶芸の伝統をさらに開拓していくものです。英国の素材を使いながら日本のろくろで形を作り、縄文象嵌などの装飾を施した彼の作品は、私たち日本人が見慣れた焼きもの、特に益子の陶芸を思い起こさせます。益子に釜を構えた浜田庄司、その弟子であった島岡達三、その陶芸に影響を受けたプラムトリ、そんな歴史的な流れが美しく力強い作風となって息づいているようです。

The Synge-Craven Collection of Regional Slipware
「シン=クレイブン氏コレクション」英国スリップウェア展

2006年6月27日〜10月29日

個人収集家の情熱が結晶した知られざる「英国スリップウェア」のコレクションが、この夏ブラックウェル館で公開されます。このコレクションには17世紀初めから19世紀末にかけてイングランド各地やウェールズで作り出された作品が含まれ、このたびの展覧会ではそのうちの100点以上が館の部屋を飾ります。

スリップと呼ばれる液状の化粧土で独特の文様がつけられた陶器ー。スリップウェアとして知られるこの素朴な焼き物は、英国で古くから家庭で愛用されてきた生活用品でした。食料を保存しておくための壷や料理皿、発酵酒を入れる水差し、ハーブや野菜を植える鉢、鶏の餌箱、雨どいや屋根瓦にまでいたる日用雑器が各地で作られていました。農村では農業を営む傍ら仕事のない冬場などにを家族ぐるみで営む窯場も多くあり、画一的でない表現豊かで個性的な作品が生み出されました。文様の付け方も羽や動物の角を使うもの、凸版で初めにくぼみをつけそこに化粧土を流し込む方法など様々でした。

結婚や子供の誕生などの出来事があると、普段このような雑器を大量に生産していた陶工たちが祝いのしるしとして一度きりの特別な焼き物を作ることもありました。たいていは依頼によるもので贈られる人の名前や日付が記されています。このような記念品の多くはミニチュアの家具や揺りかごの形をしたもの、貯金箱などで、これらには陶工たちの技と創意が最も強く表れています。他にも、大勢で乾杯するための複数の取手がついた酒器、わざとたくさんの穴が開けらた「パズル・ジャグ」と呼ばれる水差しなど酒飲みの遊びに使われたものもあります。今回の展覧会には、ユーモラスな動物の姿をした器や笛、底からカエルが顔を覗かせるコップなども見られ、その豊かな発想に驚かされます。

スリップウェアといえば、現在一般的によく知られるのが1660年代よりスタフォードシャー州で活躍をしたトーマス・トフトの作品。いきいきと描かれた原始的でかつモダンな彼のスリップ装飾は、英国スリップウェアの代表的イメージのようになっています。その一方で著名な窯場以外で作られた無銘の作品も非常に良い保存状態で現存し、いかにスリップウェアが人々の生活の一部として長年愛着を持って残されてきたかが伺えます。

作品が作られたそれぞれの時代に繰り広げられてきた様々な人間のドラマを垣間見せてくれるスリップウェア。また、鑑賞されるためだけの美術作品にはない「用の美」と自由な発想が形となったこれらの作品に、優れた芸術性を見出しインスピレーションを得た作家や思想家も数多くいます。日本民芸運動の父、柳宗悦もそのうちの一人でした。この展覧会で私たちが目にするのはただの過去の産物ではなく現代の心にも生きる作品なのです。

この貴重なスリップウェアのコレクションを長年にわたって収集・研究してきたローレンス・シン=クレイブンは、「これらの作品にはひたむきなほど前向きな姿勢がうかがえる」と言います。釉に鉛などの成分を含むことから、体に害を及ぼす危険のあったスリップウェア作り。それにもかかわらず、時には愛情のしるしとして手間をかけてつくられた作品には、それを手に取る者の心を温め元気付けてくれる力があるのです。