The
Synge-Craven Collection of Regional Slipware
「シン=クレイブン氏コレクション」英国スリップウェア展
2006年6月27日〜10月29日
個人収集家の情熱が結晶した知られざる「英国スリップウェア」のコレクションが、この夏ブラックウェル館で公開されます。このコレクションには17世紀初めから19世紀末にかけてイングランド各地やウェールズで作り出された作品が含まれ、このたびの展覧会ではそのうちの100点以上が館の部屋を飾ります。
スリップと呼ばれる液状の化粧土で独特の文様がつけられた陶器ー。スリップウェアとして知られるこの素朴な焼き物は、英国で古くから家庭で愛用されてきた生活用品でした。食料を保存しておくための壷や料理皿、発酵酒を入れる水差し、ハーブや野菜を植える鉢、鶏の餌箱、雨どいや屋根瓦にまでいたる日用雑器が各地で作られていました。農村では農業を営む傍ら仕事のない冬場などにを家族ぐるみで営む窯場も多くあり、画一的でない表現豊かで個性的な作品が生み出されました。文様の付け方も羽や動物の角を使うもの、凸版で初めにくぼみをつけそこに化粧土を流し込む方法など様々でした。
結婚や子供の誕生などの出来事があると、普段このような雑器を大量に生産していた陶工たちが祝いのしるしとして一度きりの特別な焼き物を作ることもありました。たいていは依頼によるもので贈られる人の名前や日付が記されています。このような記念品の多くはミニチュアの家具や揺りかごの形をしたもの、貯金箱などで、これらには陶工たちの技と創意が最も強く表れています。他にも、大勢で乾杯するための複数の取手がついた酒器、わざとたくさんの穴が開けらた「パズル・ジャグ」と呼ばれる水差しなど酒飲みの遊びに使われたものもあります。今回の展覧会には、ユーモラスな動物の姿をした器や笛、底からカエルが顔を覗かせるコップなども見られ、その豊かな発想に驚かされます。
スリップウェアといえば、現在一般的によく知られるのが1660年代よりスタフォードシャー州で活躍をしたトーマス・トフトの作品。いきいきと描かれた原始的でかつモダンな彼のスリップ装飾は、英国スリップウェアの代表的イメージのようになっています。その一方で著名な窯場以外で作られた無銘の作品も非常に良い保存状態で現存し、いかにスリップウェアが人々の生活の一部として長年愛着を持って残されてきたかが伺えます。
作品が作られたそれぞれの時代に繰り広げられてきた様々な人間のドラマを垣間見せてくれるスリップウェア。また、鑑賞されるためだけの美術作品にはない「用の美」と自由な発想が形となったこれらの作品に、優れた芸術性を見出しインスピレーションを得た作家や思想家も数多くいます。日本民芸運動の父、柳宗悦もそのうちの一人でした。この展覧会で私たちが目にするのはただの過去の産物ではなく現代の心にも生きる作品なのです。
この貴重なスリップウェアのコレクションを長年にわたって収集・研究してきたローレンス・シン=クレイブンは、「これらの作品にはひたむきなほど前向きな姿勢がうかがえる」と言います。釉に鉛などの成分を含むことから、体に害を及ぼす危険のあったスリップウェア作り。それにもかかわらず、時には愛情のしるしとして手間をかけてつくられた作品には、それを手に取る者の心を温め元気付けてくれる力があるのです。
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