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英国アーツ・アンド・クラフツ運動

美とよろこびのある暮らしを求めて

英国で始まった産業革命は、物質的な豊かさをもたらす一方で、様々な社会問題も生み出しました。急激な機械化や資本主義の浸透に対する危機感や反感が生まれます。19世紀後半になるとそれは芸術にも強く反映されるようになります。

当時出回っていたのは個性がなく、質の悪さを隠すためにやたらと飾り立てられた大量生産の製品。これに対して、作り手の技や創意、素材の本質を活かした物づくりに取り組んだ人たちがいました。彼らは自然を手本に美しく機能性の高いデザインを考案し、日常の生活に取り込んでいきます。19世紀の偉大な思想家ジョン・ラスキンJohn Ruskin(1819-1900)や芸術家ウィリアム・モリス(1834-1896)に導かれたこの動きは、1880年代から広がりを見せ、やがてアーツ・アンド・クラフツ運動Arts and Crafts Movementとして知られるようになります。

人々の暮らしや生活環境を美術や手工芸を通して向上させようとしたこの運動は単なるデザイン革命ではなく、モラルや社会改革の意識に深く根付いたものでした。ラスキンやモリスは、一人一人の感性や創造力が仕事によろこびをもたらし、意義のある暮らしを作り出すという信念のもと、手工芸が生活と深く結びついていた中世の精神に立ち返ろうと説きました。

自然との関わりの中で

アーツ・アンド・クラフツ運動の賛同者にとって、まだ昔ながらのライフスタイルと自然環境をとどめるカントリーサイドは理想的な製作活動の場となりました。経済や文化の中心地ロンドンだけでなく、コッツウォルズや湖水地方など発達の遅れていた地方がこの運動の発展の重要な舞台となりました。

数々の講義や出版物を通して全国各地で活躍していたラスキンが最後の住処としたのはこの湖水地方でした。彼は自然との共存の中で受け継がれてきた手仕事の伝統や地域特有の風習の大切さを語り、地元の職人たちに誇りとインスピレーションを与えました。それが湖水地方の伝統工芸や地場産業の復興へとつながっていくのです。彼らによって、湖水地方ではテキスタイルや家具、金属細工、建築などにおいて優れた作品が生み出されました。自然の素材やモチーフが映える彼らの作品は、建築家M.H.べーリー・スコットやC.F.A ヴォイジーの設計による湖水地方の建築に取り入れられ、辺りの景観と美しい調和を保っています。

生活空間の総合的設計へ

アーツ・アンド・クラフツの理念は建築の持つ新しい可能性を引き出していきます。ウィリアム・モリスらにとって建築とは、外観や内装、家具に使われる様々なかたちの美術が融合したひとつの芸術作品でした。モリスの思想を受け継いだベイリー・スコットは、建物やその内部だけでなく屋外の環境も一続きの生活空間と考えます。戸外への広がりを強調した造りに、自然の光や景観そのものを取り込み、建物と庭園、それを取り囲む環境が一体化した総合的な生活環境のデザインが生み出しました。